中小企業のM&Aと、大手企業のM&Aには実務上の手続きは同じながら、決断から誓約までの進捗大きな違いがあることは、残念ながらどの実務書を手にしても教示されていないのが実状のようです。
売却決断〜仲介業者の選定〜企業評価〜案件化〜トップミーテイング〜基本合意契約〜買収監査〜最終契約〜株券他必要物品の授受〜代金の授受〜経営引継ぎといった一連の流れの中にも、マニュアル通りに進捗しない様々な問題が発生します。マニュアルにない問題並びにその対処法は、中小企業の企業売却を体験したものにしかわからない問題であるといっても過言ではありません。
大手企業のM&Aは「取締役会」で審議されるのが常であり、一方の中小企業は社長の専管事項として一人で決断しなければなりません。その進捗も「秘密保持」とはいえ、大手企業では成約まで多くの決定権者の審議を必要としますが、中小企業は社長一人が秘密保持契約の下、決断から成約までの実務担当者として進捗していかざるを得ません。
私が株式譲渡した会社の顧問契約が終了した平成14年の9月中旬、同県内で営業していた中堅企業が民事再生法の適用申請を行った旨の新聞報道がありました。県内を代表するIT関連企業の破綻です。世界的なIT不況をまともに受け、大口納入先からの受注が激減したことによるものとの報道です。好調な売上から激減、そして破綻までの期間が僅かの2年というスピードの速さです。一年で売上げが90%も減少したという信じられないような地元新聞の報道でもありました。
私の経営していた企業においても、わずか一年で大口の受注が減り破綻への兆を感じ、私はこの時点でM&Aの決断をしたのです。M&Aの成立がなければさらなる売上の激減に追い込まれ、同様の立場にさらされていたはずです。業界や企業規模の違いはありますが、同じ地域において一方は破綻、一方はM&Aでの新たな飛躍という実例に至ったのです。
なぜなのでしょうか。
先行き不安となる危険分子を発見した時には既に遅く、企業破綻に限りなく近づいていると判断しなければならないほど、破綻へのスピードが速いのです。
私のM&A決断は、全ての人をハッピーにした起死回生戦略でした。しかし、私の様々な恥部や、同族経営での私のありかたに疑問をもたれる方、さらには、特異なケースとしてかたずけてしまう経営者もいるかもしれません。しかし職種やその経営環境に違いはあるものの、全国のスモールカンパニーにおける創業者と2台目後継者のしがらみは、私と同じなのではないでしょうか。権力を保持する創業者と、その弊害を阻止しようとすることに躊躇し、具体的な打つ手を見い出せないでいる2台目後継者の葛藤とジレンマです。
M&Aの実録をまためた、自著「私が会社を売った理由」では、同族経営という言葉を使いましたが、実質は同族をさらに細分化した家族経営であり、創業者のオーナー経営です。全国大半の中小企業が家族経営ではないでしょうか。白いものを黒と思い込んでいる創業者に対し、本気で異議申立てをし、修正させることは、家族経営でのスモールカンパニーにおいて、ある意味では親子間の絶縁を覚悟し対処しなけれければならない問題となってしまいます。場合によっては、2台目経営者の失職にさえ波及する問題となってしまうのです。このしがらみと確執は、その立場に立った家族経営の2台目後継者でなければ理解できない問題であり、問題解決にはこの実状をふまえたサポーターが必要です。
全国のスモールカンパニーの経営者が仮に起死回生の施策を必要としたとき、どこに相談し、その実務をどこに委託するのでしょうか。スモールカンパニーの場合、起死回生をコーディネートする実務能力の伴った相談先がなかなか存在しないのが現状です。顧問税理士、経営コンサルタントという専門家や銀行が真っ先に考えられる相談先であるかもしれません。又、相談はしたもののM&Aの実務経験がないため、相談されてもコーディネートのしかたがわからず、進展しないというのが実状なのかもしれません。
さらにもっと大きな問題は、経営者自ら企業再生に奔走すると、経営的に余裕のある決断でも、よからぬ噂があっという間に広がり、その噂を恐れるが為決断が遅くなり、破綻となってしまうケースもあるのです。M&Aによる余裕のあるスモールカンパニーの企業再生は、既存企業の存続と飛躍、そして従業員の雇用継続並びに待遇改善という願ってもない企業蘇生法となります。反面経営者の代償も必要となります。
その代償とは、身内からの中傷に対する忍耐と精神的葛藤、そして、M&A成立後においては従来の権限の剥奪、さらには、一時的にしろ自尊心の抹殺が求められる屈辱という精神面での代償です。企業再生は中途半端な決断と、経営者の見栄があれば成立しないものです。しかし、見栄や体裁を排除し、すばやい決断と行動があれば、必ず勝利の女神は決断者に微笑みます。
M&A進捗の約一年半、私自身、本書では書ききれない様々な修羅場をくぐりぬけてきました。家庭での私は2男1女の父親です。家族崩壊の一歩手前までの修羅場もありました。しかしながら一番の収穫は、経営事情を皆目知らない三人の子供たちながら、M&Aを通し、なにごとにも、「責任をまっとうすべく、逃げずに立ち向かう」という人生での重要性を、私と妻の後ろ姿で教示することができたということかもしれません。
私は会社売却の後、生涯教育支援の新たなビジネスモデルを構築し、M&Aの譲渡金にて新会社を設立し代表取締役に就任いたしました。今度は2代目経営者ではなく創業者としての第2創業です。。
その傍らですが、全国のスモールカンパニー2代目経営者の方々へ、私の経験から体得したM&Aを、専門化とは違った切り口から、解り易く伝授しているところです。同族中小企業経営者の企業再生サポーターとしての活動です。
優秀な実務能力を保持したビジネスコンサルタントは全国各地に多数存在しますが、同族2代目という、社内や地域での立場と精神的葛藤、創業者との確執、その他様々な修羅場を自ら検証し、且つ、乗り越えながらアドバイスしているコンサルタントは極少数ではないでしょうか。私自身も起死回生を決断する際、2代目経営者としての体裁やしがらみという立場を理解してもらい、身の丈に応じた企業再生の実務家に橋渡ししてくれるアドバイザーがいれば・・・と何度思ったことでしょうか。
M&A実務経験のないコンサルタントは机上論でのM&Aの実務を知っていても、再生決断に至らない、嘲笑企業経営者の「問題の本質」をとらえることができません。起死回生の決断ができれば、その後は専門家にまかせればよいのですが、決断までの立場を理解し、その決断を、信頼でき、且つ、実績の伴なった企業再生の専門家軍団に橋渡しできる、スモールカンパニー向けのコーデイネーターが存在しないのです。
私には、私自身の苦渋体験があるからこそ、様々な悩みを抱える2代目経営者の気持ちも理解できます。わたしの生身のM&A現場体験が、起死回生に苦悩するスモールカンパニー後継者への叱咤とエールになれば本望です。
株式会社メルサでは、実践で検証した中小企業のM&Aに対し、全国の中小企業経営者からののお問い合わせに常時お応えしております。ご質問がおありの方は、こちらのお問合わせフォームから内容をお知らせ下さい。 |